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むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに

「スクールカーストの正体」堀裕嗣

  

   「スクールカースト」という言葉は、教職について約10年になる自分にとって、新採用の頃から徐々に聞かれ出した言葉だ。最初はネットスラング的な扱いの「教育関係者にとっては何となく嫌な言葉」といった印象に過ぎなかったのだが、現在は教師自身も「スクールカースト」というものを真正面から捉えざるを得ない、むしろ「スクールカースト」を理解しなければ生徒指導や学級経営に支障をきたすことさえあると著者は主張する。

 森口朗著「いじめの構造」を基に、<自己主張力><同調力><共感力>をパラメーターとして生徒を8種類に分類することによって、カースト順位やいじめリスクを説明できるという考察は、現場の教師にとっては思わず膝を打つ内容だ。それらの詳細についてはリンク先のブログのまとめが詳しいので参照されたい。

 

pojihiguma.hatenablog.com

 

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 しかし、さらに現場の教師にとって鮮烈なのは、「こうした眼差しは、実は担任教師にも向けられているのである」という考察である。教師は権威のあるものとして、スクールカーストの枠から外れた別次元の扱いを受けていた時代も過去にはあったのかも知れない。しかし、生徒が教師を自分たちと同列の存在であると見なすようになった現代、教師はこのスクールカーストを無視できないどころか、自分自身のスクールカーストの立ち位置も踏まえた指導が必要になるという事実を突きつける。

 例えば、<自己主張力><同調力><共感力>の全てを兼ね備えた「スーパーリーダー教師」であれば、生徒に対して最も大きな影響力を持つが、そんな教師はせいぜい各学校に1人いるかいないか、であると指摘する(こうした教師は職員室カーストも概して高い。個人的には、やんちゃ生徒と良好な関係を築け、かつユーモアセンスのある運動部顧問の30~40代男性教師っていうイメージ)

 <自己主張力><共感力>をもった教師は、生徒でいうと「孤高派タイプ」、つまり「いわゆる教師然とした教師」であり、確かにこのタイプは多いように思う。教師は生徒に迎合してはならないと考え、なるべく生徒に同調しないようにと一歩引こうとするイメージだ。

 この2タイプ以外の教師は、「残虐リーダー生徒」よりもカースト順位が低くなるので、いじめが起こっても指導が困難になる場合がある。例えば、<共感力>だけ持ち合わせている「お母さん先生」や「若いお兄さん・お姉さん先生」タイプは、「いい人だけど頼りにならない」と生徒から判断され、指導が困難になる危険性がある。特に厄介なのは、<自己主張力>だけ強い「自己チュー教師」、さらにはどの要素も持ち合わせていない教師であり、カースト最下層に位置づけられ、学級崩壊リスクが最も高いと指摘する。

 これまで「教師の資質」というものは、評価が難しいという職業特性上、あまり真正面から語られることが少なく、ある意味それが真実を見えにくくしていた(教師側からすれば見ないようにしていた)側面がある。しかし、「スクールカースト」という考え方を生徒だけでなく教師にまで拡張することで、「学級担任としての力量」を定量的に評価することができると堀先生は看破された。まさに「キレイゴト抜き」とはこのことだと感じる。

 その後は、<自己主張力><同調力><共感力>や、<父性型><母性型><友人型>を全て兼ね備えた教師は存在しない以上、教師がチームとして相互補完的に協働することが重要であるという主張が展開されていく。

  現役中学教師である堀先生らしい、同業者にとっては生々しすぎて目を背けたくなる部分にまで切り込まれた素晴らしい著作だと思う。新書として多くの人の目に触れてほしい。

 

教師力ピラミッド 毎日の仕事を劇的に変える40の鉄則

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