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むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに

「とんでもなく役に立つ数学」西成活裕

 

とんでもなく役に立つ数学

とんでもなく役に立つ数学

 

  

 どこかのブログか何かで紹介されていた1冊。同じ著者の「渋滞学」もかつて読んで面白かったので手に取ってみた。
 内容としては、大学の研究室訪問に来た高校生を相手に、数学という学問がどのように実生活の中で使われて役立っているのかを解説するというもの。終盤の「東京マラソンのスタートを最も早く行うには、行列の長さを何mにすればいいか」という問題の解を微分して求めるというのも面白かったのだが、ゲーム理論の1つとして紹介されていた「繰り返しゲーム」が非常に示唆に富んでいた。
 
 あるレストランが新装開店した。料理人の腕が良く、美味しくて大評判。
 ただ、店は予約できず、客席は結構狭い。6人までだったら快適に食事できるけれど、7人になるとぎゅうぎゅう詰め。7人以上のときは、窮屈でイライラが募り、かえって不愉快になってしまう…。

 という条件で、プレーヤーが13人いたとすると、どうすれば13人全員合わせたトータルの満足度(点数)が高くなるか…という実験。得点は、

  • 店に出かけた場合:「客が6人以下→快適に食事できたのでベストの2点」「客が7人以上→窮屈でストレスを感じるので0点」
  • 家にいた場合:「客が6人以下→残念だったということで0点」「客が7人以上→不快感はないので1点」
の4パターンあるとする。そしてその上で、一人一人がとる行動を、
  1. 「自分さえよければいい」バージョン:店に行って食事を楽しめたら、翌日もまた店に行っていい思いをしようとする。家にいたときに店が混んでいて、窮屈な思いをしなくて済んでラッキーだったら、また翌日も家にいる。得点を取ったら次も同じ方法で点を取ろうというスタンス。
  2. 「譲り合い」バージョン:店に行って食事を楽しめたら、翌日は他の人に譲って家にいる。家にいて得点をもらったら、翌日は混んでいるかもしれないけど店に行ってみる。勝ち続けようとせず、得点をもらったら、次は他人に勝ちを譲るというスタンス。

 の2バージョンでそれぞれゲームを繰り返すと、わずか10日程度で有意な差が現れ、「譲り合い」バージョンの方が合計得点が高くなるのだという。

 
 1回きりのゲームでは多くの場合譲った方が損をするのだけれど(ex.囚人のジレンマ)、それが繰り返される場合は、利他的にふるまった方が社会全体がより幸せになる。実際に、著者が専門とされている渋滞学においても、「ちょっと我慢して譲り合った方が全体がスムーズに流れる」という場面が多々見られるらしい。
 
 この結論はまさに『学び合い』そのものである。「譲り合いの心を持ちましょう」(『学び合い』でいうところの「一人も見捨てない」)というのは”徳”ではなく”得”だということが、こうして科学的に実証されるというのは、教師の語りとはまた違った角度からの説得力を持たせることができるのではないだろうか。この実験、授業開きで実際にクラス全員でやってみると面白いかも(数学の先生は特に)。
 
渋滞学 (新潮選書)

渋滞学 (新潮選書)