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むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに

「生物学的文明論」本川達雄

 

生物学的文明論 (新潮新書)

生物学的文明論 (新潮新書)

 

  生物学の入門書としての名著「ゾウの時間 ネズミの時間」の著者・本川達雄先生の新書。やたら口語調の文章なので講演録か?と思ったら、案の定ラジオ講座の文字起こしだった。お喋りのトーンなので読みやすくもあり、逆にそのせいで読みにくくなっている部分もあり。

 

 第1章から第3章くらいまでは、サンゴやイソギンチャクなどの共生生物多様性の話で、まあ割とよくある話(それでも十分面白いけれど)。ところが、第4・5章の「生物と水」「生物の形」くらいから、先生の専門分野であるナマコの話あたりをきっかけに、どんどん面白さにドライブがかかり始める。

  1. 光合成や放熱などの効率を考えると、表面積が大きい平らな形状の方がいい
  2. 安定性や強度、抵抗の小ささなどを求めるとなると球状の方がいい

という2点の折衷案として「生物は円柱形を選んだ」という考え方には膝を打った。抵抗を小さくするため、円柱形の一方の端を進行方向に向けるようになれば、その端に口を配置すれば好都合だし、さらに未知の領域に接するその端に感覚器官と脳を配置するようになり…という展開には目から鱗。

 

 その後も「ゾウの時間 ネズミの時間」と同様「基礎代謝率と体重は4分の3乗に比例」などのアロメトリー式が登場するが、数式が少ない分本書の方が読みやすい。

 その中で「心臓時計は15億回で止まる」という内容がある。小型動物は単位時間当たりの心拍数が多いので短命で、大型動物は逆に心拍数が少ないので長寿という関係にあるが、一生に心臓が脈打つ総数はおよそ15億回で同じということだ。

 その考え方をヒトに適用すると、ヒトの総心拍数が15億回を迎えるのはだいたい40歳頃(確かにその頃になるとヒトは老いの兆候が顕著に現れるようになるし、実際に古代や中世の平均寿命はそんなもんだった)。しかし現代のヒトの平均寿命は80歳くらいなので、40歳からの後半40年間は「人工生命体」と言える。

 そう考えると、今31歳の私にとって「自然生命体」でいられるのは残り10年ほど。人生の後半部分は「おまけ」と考えると、残された寿命はそう長くはないということだ。身につまされる話である。

 ということは、健康のためにランニングをするというのは限りある心拍数を無駄に消費することにならないのだろうか?

  

ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 (中公新書)

ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 (中公新書)