「思い出の1曲」
5月発行のPTAの広報誌に掲載される、職員紹介の原稿依頼が来た。名前や役職に加え、今年は「思い出の1曲」と、それに付随するエピソードがテーマだった(昨年度は確か「憧れの人物」だった気がする)。
生徒や保護者が誰も知らないようなマニアックな曲を挙げるほど子供でもないし、かといって10代・20代の頃のリアルな青臭い思い出を披露できるほど大人でもない。どんな曲にしようかあれこれ思索に耽っていたところ、岡村孝子の「夢をあきらめないで」という曲をふと思い出した。
この曲は、初任校での最後の年に卒業生に向けて職員一同で歌ったことがある。自分が生まれた頃の懐メロであり、それまでは巷間に数多存在する、ありふれたメッセージを乗せた定番の卒業ソングの1つ、ぐらいの認識しか持ち合わせていなかった。しかし、2番のサビに登場する
あなたが選ぶ全てのものを
遠くにいて信じている
という歌詞に強い衝撃を受けたことをよく覚えている。
教師と生徒との付き合いは、長い人生の中でごくわずかな期間に限定される。どんなに良好な関係を築けたところで、卒業や異動などによってその付き合いは途切れてしまう。いつまでも手取り足取り面倒をみたり、寄り添ったりすることはできない。
であれば、彼ら彼女らが人生の中で何を選ぶのかを、我々は「信じる」ことしかできない。我々が選んであげるのではなく、「選ぶ方法」を教えることこそ、教師の仕事に他ならないのではないか。そんな教師の仕事の本質を、この曲はサラリと1フレーズで表現しているように思えてならないのだ。
…というような内容を、規定字数である数十字程度にまとめて提出した。共感してくれる生徒や先生がいてくれることを信じたい。